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セキュリティ対策

2026.08.31

思わぬところに潜んでいる
可用性喪失リスク

 クラウドに預けたデータが、ある日突然消えてしまう——。ベンダーの倒産や契約トラブルにより、データに二度とアクセスできなくなる「可用性損失リスク」をご存じですか?本コラムでは、米国のデータ消失事件を例に、日本の法律やSLAでも防ぎきれないクラウドの死角を解説。事業継続の要となる「外部バックアップ」など、今すぐ見直すべき自社主導の出口戦略について紐解きます。

 

 

 

 


1. クラウドサービスに預けたデータが突然消える日

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 皆さんは現在、クラウドサービスをいくつ利用していますか?今やビジネスにおいてクラウドサービスの利用は当たり前の光景となりました。利便性の裏側で、私たちは顧客の個人情報や財務情報、社外秘の設計図など、事業の根幹をなす重要データを日々クラウド上に預けているはずです。では、もし明日、そのサービスへのアクセスが突如として遮断され、預けたデータが二度と手に入らなくなったら、皆さんのビジネスは継続できるでしょうか。

 サイバー攻撃やシステム障害への対策を講じていれば安全だと考えがちです。しかし、クラウドベンダー自体の突然の倒産や事業停止、さらにはその裏側にいるインフラ事業者との契約トラブルといった、従来のセキュリティ対策だけでは防げない可用性喪失リスクが潜んでいることを理解しておく必要があります。自社に一切の落ち度がなくても、ある日突然データへのアクセス権を失い、最悪の場合は消滅してしまうかもしれません。

 決して絵空事ではないこのリスクについて、2026年3月に米国で実際に発生した公共放送局「Nine PBS」のデータ消失事件を例にクラウドサービスに潜む死角について紹介します。なお、本コラムは2026年8月20日時点の情報を基に構成しています。

 

 

 


2. 70年分のデータが消失?Nine PBSが直面した悲劇

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 2026年3月、米国の公共放送局Nine PBS(以下「同局」と表記)は、契約するクラウドストレージ事業者(Open Source Storage社、以下「OSS社」と表記)の突然の事業停止により、70年分・約50TBにも及ぶ貴重な番組アーカイブデータへのアクセスを突如遮断されました。

 問題が深刻化した要因は、OSS社が自社インフラを持たない「再販業者」だった点にあります。実際のデータは、データセンター事業者(Iron Mountain社、以下「IM社」と表記)のデータセンターに保管されていました。同局の訴えに基づき裁判所は、同局のデータへのアクセス権を認めましたが、IM社は「自社が契約しているのはOSS社であり、Nine PBSとは直接の契約関係がない」としてデータの引き渡しを拒否し、法的な膠着状態に陥りました。この事件は、自前バックアップの欠如とクラウドサービスの裏側に潜むサプライチェーンの不透明性が招いた可用性喪失の典型的なインシデントと言えます。

 

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3. 日本の法体系から見る3つのリスク

 Nine PBSの事件を見てわかるとおり、クラウドベンダーの倒産や事業停止は、単なるサービスの停止ではなく、データの可用性喪失リスクとして以下の3つのリスク認識を持つ必要があります。

1. 法的権利と物理的アクセスの乖離
 通常、預けたデータは自社の業務データであっても、裏側のインフラ事業者から見れば「ベンダーの所有物・契約物」として扱われます。ベンダーが消滅した際、ユーザー企業が「これは自社のデータだ」と主張しても、直接取り戻すことは極めて難しい状況に陥ります。

 民法において「所有権」が認められるのは物理的な実体がある「有体物」のみであり、無体物であるデジタルデータに所有権は成立しません。これは民法第85条において「物」が有体物と定義されているためです。「自社の所有物だから返せ」という主張は法的に通らず、データ回収は極めて困難となります。さらに、日本の民法上、契約の効力は当事者間にしか及ばない「契約の相対性の原則」があるため、直接契約していない裏側のインフラ事業者に対し、データの返還を法的に強制することはできません。

2. サプライチェーンの不透明性
 現在のクラウドサービスの多くは、クラウドベンダー自身がサーバーなどのインフラを持たず、裏側で別のインフラ事業者のIaaS基盤を間借りして提供する形態を取っています。ユーザー企業に非がなくても、クラウドベンダーが経営難でインフラ事業者への利用料を滞納すれば、ある日突然データごと消去されるリスクが内在しています。インフラ側からすれば正当な契約解除であり法的責任を問えません。また、業務データに個人情報が含まれる場合、ユーザー企業は個人情報保護法により「委託先の監督義務」を負います。これは同法第25条に定められている義務であり、クラウドベンダーが背後で使う再委託先を把握していなければ法令違反のリスクが生じます。

3. 契約やSLAの限界
 Nine PBSの事例においても、「契約終了後30日間のデータ移行期間」を保障するSLA条項が存在していましたが、ベンダー自身が廃業しコントロールを失った状態では実効性を持たないことが証明されています。

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4. まとめ

 契約相手が消滅した時点で法務的アプローチは破綻するため、クラウドサービスの選定には技術的・運用的な自衛策が不可欠です。具体的には、クラウド基盤に依存しない「外部バックアップ」と有事にいつでもデータを退避できる「自社主導のデータ抽出」を要件化します。

 さらに、物理的な保存先を把握する「再委託先の特定」や倒産の兆候を早期検知する「ベンダー財務的健全性の継続モニタリング」の仕組み構築も重要です。予期せぬ事態でデータへのアクセスを完全に失う前に、確実な出口戦略を担保することこそが、事業継続の鍵となります。

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株式会社AppGuard|執筆:AppGuard セキュリティアドバイザー

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