クラウドに預けたデータが、ある日突然消えてしまう——。ベンダーの倒産や契約トラブルにより、データに二度とアクセスできなくなる「可用性損失リスク」をご存じですか?本コラムでは、米国のデータ消失事件を例に、日本の法律やSLAでも防ぎきれないクラウドの死角を解説。事業継続の要となる「外部バックアップ」など、今すぐ見直すべき自社主導の出口戦略について紐解きます。
1. クラウドサービスに預けたデータが突然消える日

皆さんは現在、クラウドサービスをいくつ利用していますか?今やビジネスにおいてクラウドサービスの利用は当たり前の光景となりました。利便性の裏側で、私たちは顧客の個人情報や財務情報、社外秘の設計図など、事業の根幹をなす重要データを日々クラウド上に預けているはずです。では、もし明日、そのサービスへのアクセスが突如として遮断され、預けたデータが二度と手に入らなくなったら、皆さんのビジネスは継続できるでしょうか。
サイバー攻撃やシステム障害への対策を講じていれば安全だと考えがちです。しかし、クラウドベンダー自体の突然の倒産や事業停止、さらにはその裏側にいるインフラ事業者との契約トラブルといった、従来のセキュリティ対策だけでは防げない可用性喪失リスクが潜んでいることを理解しておく必要があります。自社に一切の落ち度がなくても、ある日突然データへのアクセス権を失い、最悪の場合は消滅してしまうかもしれません。
決して絵空事ではないこのリスクについて、2026年3月に米国で実際に発生した公共放送局「Nine PBS」のデータ消失事件を例にクラウドサービスに潜む死角について紹介します。なお、本コラムは2026年8月20日時点の情報を基に構成しています。
2. 70年分のデータが消失?Nine PBSが直面した悲劇
2026年3月、米国の公共放送局Nine PBS(以下「同局」と表記)は、契約するクラウドストレージ事業者(Open Source Storage社、以下「OSS社」と表記)の突然の事業停止により、70年分・約50TBにも及ぶ貴重な番組アーカイブデータへのアクセスを突如遮断されました。
問題が深刻化した要因は、OSS社が自社インフラを持たない「再販業者」だった点にあります。実際のデータは、データセンター事業者(Iron Mountain社、以下「IM社」と表記)のデータセンターに保管されていました。同局の訴えに基づき裁判所は、同局のデータへのアクセス権を認めましたが、IM社は「自社が契約しているのはOSS社であり、Nine PBSとは直接の契約関係がない」としてデータの引き渡しを拒否し、法的な膠着状態に陥りました。この事件は、自前バックアップの欠如とクラウドサービスの裏側に潜むサプライチェーンの不透明性が招いた可用性喪失の典型的なインシデントと言えます。

3. 日本の法体系から見る3つのリスク
契約相手が消滅した時点で法務的アプローチは破綻するため、クラウドサービスの選定には技術的・運用的な自衛策が不可欠です。具体的には、クラウド基盤に依存しない「外部バックアップ」と有事にいつでもデータを退避できる「自社主導のデータ抽出」を要件化します。
さらに、物理的な保存先を把握する「再委託先の特定」や倒産の兆候を早期検知する「ベンダー財務的健全性の継続モニタリング」の仕組み構築も重要です。予期せぬ事態でデータへのアクセスを完全に失う前に、確実な出口戦略を担保することこそが、事業継続の鍵となります。
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株式会社AppGuard|執筆:AppGuard セキュリティアドバイザー
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